「最近、調子がいいのよ」とyoukoさん。
レビー小体型認知症の代表的な症状である幻視のことだ。
見えないの? と聞くと
「見えない、っていうより、やって来ないのよ」だって。
youkoさんの家にはいろんな人がやってくる。らしい。
3年ほど前から見え始めたのは、「田舎娘風の洋服を着たフランス人形」「柱をよじ登る3歳くらいの男の子」
「妹たち」などなど。
父が亡くなって一人暮らしになると、不安が高じてだんだん「コワイ人たち」が多くなってきた。
そして、幻視と現実の境があいまいになってくる。
電話をすると「昨日もアイツらがやってきたのよ!」とひそひそ声で報告する。
「電気を点けさせまいとして、紐を引っ張って消しちゃったのよ。その紐を私が届かないところに隠そうとして、電気の上(照明シェードの上)に上げちゃったのよ!」真面目に言う。
ウチの近くに引っ越して来させた頃は、新しい部屋に馴染めなくて毎晩のように電話で呼び出された。
「早く来て! カーテンの向こうに男がいるの!」
急いで駆けつけると、「ほら! ほら! あそこ! いるでしょ!」
猟銃を持った男が恐ろしい顔で狙っているという。
「何もいないよ、大丈夫」とカーテンを開けようとすると、「あぶない! ダメよ!」と悲鳴を上げる。
床の上には布団叩きが転がっていて、「それで戦っていた」と説明する。
9月の末。引っ越してきた頃は最悪だった……。
youkoさんの飼い猫の1匹が逃げ出してしまったのも影響を及ぼして、
「あの穴(テレビのアンテナを接続する穴)からミケちゃんがスーッと出て行った」
「お隣への境の壁から向こうにミケちゃんが行っちゃうのを見た」
猫が5日後の自力で戻った後も、
「隣の男の子がゴン太を抱えてやってきて、玄関からポンっと投げ込んだのよ! きっとあの子が連れて行って隠してたのよ」
玄関は鍵がしまっているし、お隣にはそんな男の子はいない、といくら言っても聞かない。
近所の賃貸マンションから、私の家のすぐ隣の分譲マンションに引っ越すことになった時には、
最初の引っ越しでつぶれてしまった古い紙製の衣装ケースを指さして
「つぶれるのも当然よ。その上で毎日女の子たちが飛び跳ねているんだもの。上でお母さんがご飯を食べさせている時もあるし」なんて言う。
実際につぶれている箱と、幻視の世界がストーリーで結びついているのである。
2度目の引っ越しで、私や夫が適当に荷物を運び入れて置いたものを指さして、
「こんなモノは初めて見た。誰かが持ってきたのよ! トイレにこんな紙パンツを置くなんて、嫌がらせに決まってるワ!!」と激怒する。
肺がんで亡くなった父が最後に使っていたパンツ型のオムツを何気なくそこに置いただけのことなのだが、それがここにあるということが理解できない。
洗面所に置いたドライヤーを見て、「誰かが置いていったのかしら」とも言う。
逆に、引っ越しのドタバタで出てこないモノについては「引っ越しやさんが盗ったのかもしれない」と言う。
まぁ、長くなったけれど、そうしたモロモロが処方されている薬で抑えられてきたのは喜ばしいことだ。
近頃は表情も明るくなったし、何より前向きになった。
悪いことを予想して心配することが減り、人の悪口も抑えられるようになってきている。
本当に今のクリニックにたどり着いてよかった!
経験のあるお医者さんとの出会い、そして、経験に基づく的確な薬の処方。それに尽きる。
大きな総合病院に行けばいい先生がいるとは限らないし、専門書に出ている薬がいいとも限らない。
このまま、小康状態が続いてくれるといいんだけどねぇ。